
昔、ウォール街を舞台にした映画『ウォール街』で、マイケル・ダグラス演じる主人公が「Greed is good(欲望は良いことだ)」と語る有名なシーンがあります。
その人物はインサイダー取引に手を染め、最終的にはその代償を払うことになります。そのため、この言葉も映画の中では肯定的な意味で描かれていなかったと記憶しています。
随分と昔に見た映画を思い出したのは、先日録画していた健康をテーマにしたテレビ番組を見たことがきっかけでした。番組では「健康とは何か」という問いが投げかけられ、さまざまな立場や経験を持つ人たちが意見を交わしていました。
番組の中心となっていた方は、精神的な疾患や糖尿病など複数の病気を抱えており、日常生活にもさまざまな困難を抱えていました。その方の問いかけから議論は始まりました。
その中で印象的だったのは、「そもそも健康な人などいるのだろうか」という話でした。世界保健機関(WHO)憲章の定義によると「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること。」なのだそうです。おいおい、そんな奴いるのかよ。
番組をみていると「健康とは何か」という問いそのものがどんどん曖昧になっていきます。答えを出そうとすればするほど、かえって分からなくなっていくような不思議な感覚がありました。だんだんと不可能な幻想に思えました。
私は鍼灸師として働き、その前は長年病院にも勤務してきました。健康であることを支援するのが自分の仕事だと思ってきましたが、改めて「健康とは何か」と問われると、はっきりとは答えられないことに気づかされました。
番組の中では、その方が訪問看護を利用している様子も紹介されていました。精神的な不調によって掃除などの日常的な家事が難しいことがあり、訪問看護の支援を受けているそうです。
ところが、人に手伝ってもらうことに後ろめたさを感じるため、訪問看護が来ると無理をして自分も掃除のお手伝いをしてしまうのだと言います。その結果、本来なら休むべきところで頑張り過ぎてしまい、かえって体調を崩して寝込んでしまうことがあるそうです。文章でうまく説明できないのが自分でももどかしいのだが、その人は改善出来ない自分と改善したようなフリだけ上手な自分が嫌いな様子でした。私はそんなことを考えたことがなくて、本当に理解できなかった。繊細で脆い様子が気の毒でした。自分が健康なのはバカだからかも知れないません。
番組の終盤では、「健康」から少し視点を変え、「幸せ」についての話になりました。
人はハッピーになりたいという欲望を持っています。そして、その欲望を満たそうとすることは決して悪いことではない。具体的には「ハッピーを欲望する」と表現していて、いい言葉だと言っていました。
その話を聞いたとき、私は映画の「Greed is good」という言葉を思い出しました。
もちろん映画の中で語られる欲望と、ここで語られる幸せへの欲求は同じものではありません。しかし、「幸せを求めることは良いことだ」という考え方は真っすぐすぎて、時に否定されがちだけれど、生活の前提なんだと思いました。
健康とは何かという問いに対して、番組では最後まで明確な答えが出せませんでした。私は見ていて、健康を目指すよりハッピーを目指す方がいいように思いました。
私の仕事はもちろん健康のお手伝いであることは変わらないのだけれど、ハッピーのお手伝いだと再定義したほうが良いように思いました。
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