感覚と情動から心身相関を考える
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初めに
心身相関とは,南山堂の医学大辞典によると「脳の はたらきと身体がお互いに密接に関連しあっているこ と.すなわち,こころの動きは何らかの身体的変化を 引き起こし,また逆に身体的変化は何らかの心理的反応を引き起こす現象をいう。情動は心身相関の典型例。情動についてまとめた文献です。
この文献では感情とは言語で表現できるもの。情動とは喜怒哀楽等の強い感情で行動や自律神経反応、内分泌反応などの身体反応を伴うものと定義づけされている。
- ランゲは、情動は外部からの刺激かあって発生する。外部刺激から身体反応が発生して感情がおきる「情動の末梢起源説」と唱えた。
- キャノンは外部刺激が身体反応を経由しないで起こる「情動の中枢起源説」を唱えた。
- 情動の表出には視床下部帯状回や海馬や扁桃体が重要な役割をしている。
- 大脳辺縁系は脳の内側にあり脳幹や間脳を取り囲むように存在している。
- 扁桃体は恐怖の情動に重要。生命にとって価値があるかないか危険かどうかの判断をする。
- 喜び,悲しみ,恐れ,怒り,驚きといった情動であるが,これらは生得的に持っている情動で一次的情動あるいは基本情動といわれている。さらにヒトの情動には,当惑,嫉妬,罪悪感などの二次的情動もある。
- 二次的情動は後天的なもので前頭前皮質や体性感覚皮質が関係しているといわれている。刺激が加わると扁桃体がはたらいて視床下部や脳幹に出力を出して身体反応が起きるこれらの情報はいずれ学習されて別の信号が入力されても反応するようになる。
- 情動の制御には前頭前野が注目されている。
情動が起こると体が変化するとその変化は脳に伝えられる。体の情報が脳に伝わるルートは感覚神経を介するもの、自律神経を介するもの、分泌したホルモンが血流と一緒に脳に運ばれるものなど。悲しいから泣くのではなく泣くから悲しいという場合もあるが逆に泣くことで情動が落ち着く実験例も紹介されている。
序論
感覚と情動は密接に関連しており、その相互作用を理解することは非常に重要である。感覚刺激の受容は情動が発生する最初の段階であり、感覚なしには情動は生じない。例えば、美味しい食べ物の香りを感じると幸せな気持ちになるが、これは香りという感覚刺激が情動の引き金となっているためである。このように、感覚は情動の基盤となっており、感覚メカニズムを理解することが情動の発生メカニズムを理解する上で不可欠である。
一方で、情動は行動や生理的反応に大きな影響を及ぼす。怒りの情動があれば、顔を紅潮させたり目を見開いたりする表情の変化が起こる。恐怖の情動では、身体が震えたり冷や汗が出たりする自律神経反応が生じる。このように、情動は外見や身体反応に現れるため、情動と行動・生理反応の関係を理解することが重要である。
情動の発生メカニズム – 感覚入力と情動の生成
私たちの情動は、外界からの感覚入力に端を発している。情動が発生するためには、まず感覚受容器が様々な刺激を受け取る必要がある。例えば視覚受容器である網膜が光を受け取ったり、聴覚受容器である内耳の有毛細胞が音波を受け取ったりする。これらの感覚情報は感覚神経を通って大脳皮質の感覚野に伝達され、視覚や聴覚といった様々な感覚として認識される。
感覚野で処理された感覚情報は、大脳辺縁系の扁桃体や海馬、そして新皮質の前頭前野などの情動関連領域へと送られる。これらの領域では、入力した感覚情報が自分にとって快なのか不快なのかを判断する価値評価が行われる。この価値評価の結果、快であれば喜びの情動が、不快であれば怒りや恐れの情動が生じることになる。
一旦情動が生じると、大脳基底核や視床下部、脳幹などの領域が活性化され、行動の変化や自律神経系の亢進、ホルモン分泌の促進など、様々な身体反応が引き起こされる。このように、感覚入力を受けて生じた情動は、私たちの行動や生理状態に大きな影響を及ぼすのである。
情動の発生メカニズム – 大脳辺縁系と新皮質の役割
情動の発生には、大脳辺縁系と新皮質という2つの主要な領域が深く関与しています。
大脳辺縁系は、扁桃体、海馬、帯状回などで構成される領域で、情動の中核を成す重要な役割を担っています。感覚情報が扁桃体に入力されると、その情報に対する価値判断が行われます。例えば、危険を示す視覚情報が入力された場合、扁桃体はそれを脅威として認識し、恐怖情動が生じます。海馬は、記憶や空間認知と関連しており、情動に関連する過去の記憶を呼び起こすことで情動の強化に寄与します。帯状回は、報酬や満足感などのポジティブな情動と関わっています。このように、大脳辺縁系は感覚入力を受け取り、快・不快の価値付けを行うことで情動を生成する中心的な役割を果たしています。
一方、新皮質、特に前頭前野は、情動の高次制御に関与しています。前頭前野は大脳辺縁系から情動情報を受け取り、その情動を適切に制御・調節する働きがあります。例えば、怒りの情動があっても前頭前野が抑制的に働くことで、その怒りを抑えられるようになります。このように、新皮質は大脳辺縁系で生成された情動を調整し、状況に応じた適切な情動表出を可能にします。
大脳辺縁系と新皮質は密接に関連しており、情動の生成と制御を協調して行っています。感覚入力を受けて情動が生成され、その情動が新皮質によって適切に調節されるという、このプロセスが円滑に機能することで、私たちは状況に応じた適切な情動を表出できるのです。両者の相互作用が情動のメカニズムにおいて極めて重要な役割を果たしていると言えます。
情動が行動に及ぼす影響 – 行動変化と例
情動は私たちの行動に大きな影響を及ぼします。適切なレベルの情動は、本能的で適応的な行動を引き起こすためです。例えば、恐怖の情動は危険を回避する行動を促し、怒りの情動は自己防衛の行動につながります。喜びの情動は、新しい事物や人々に対する探索行動や、積極的な社会的関係を築く行動を後押しします。このように、情動は私たちの行動を適応的な方向へと導いてきました。
しかし一方で、情動が過剰になったり持続したりすると、適応的ではない有害な行動が生じる可能性があります。例えば、恐怖が極端になると、過剰な回避行動や凍りつく行動につながります。怒りが激しくなり過ぎると、攻撃的になり過ぎて対人関係を損ねかねません。喜びの情動が過剰になると、無分別で常識を逸脱した行動に走るリスクがあります。
情動が行動に及ぼす影響 – 適応的行動への影響
情動は人間の生存と適応に大きな役割を果たしてきました。まず、恐怖の情動は危険を回避する行動を促します。例えば、森の中で熊に出くわしたときに恐怖心が生じれば、すばやく逃げ出したり木に登ったりと、危険回避行動をとることができます。
怒りの情動は自己防衛の行動を生み出します。例えば、他者から攻撃を受けたときに怒りの情動が起これば、その場から逃げるだけでなく、攻撃者に対して反撃する行動がとられます。この攻撃的行動は自身を守る上で適応的な意味があります。
一方、喜びの情動は新しいものや人々に対する探索行動を促進し、社会的関係を築く上で重要な役割を果たします。喜びの情動があれば、好奇心が湧き、周りの環境や人々に対して積極的に働きかけようとするでしょう。
情動が生理的反応に及ぼす影響
情動が生じると、自律神経系が活性化され、様々な生理的変化が引き起こされます。まず、交感神経系が興奮することで、心拍数と血圧が上昇します。怒りの情動があれば顔が赤くなり、恐怖を感じれば冷や汗が出るなど、血管運動も活発化します。また、呼吸数の増加や瞳孔散大、筋緊張の亢進なども見られます。
一方で、副交感神経の活動が優位になると、逆に心拍数や血圧が低下し、消化器系の働きが促進されます。このように、情動は自律神経系のバランスを変化させ、多様な生理反応を引き起こすのです。
さらに、情動によってはストレス反応が生じることもあります。ストレス状態では、視床下部から下垂体を介して、副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。コルチゾールは代謝を促進し、免疫機能を低下させるなど、長期的なストレスは心身の健康を損なう恐れがあります。
情動制御の重要性 – ニーズと方法
感覚と情動の関係を理解することは重要ですが、同時に情動をコントロールする方法を身につけることも大切です。適切な水準の情動は適応的な行動を促しますが、情動が過剰になると問題行動につながる可能性があります。したがって、情動を適切に制御することが、健全な生活を送る上で不可欠なのです。
情動制御には、心理的アプローチと生理的アプローチの2つの方法があります。心理的アプローチとは、認知行動療法やマインドフルネス瞑想などの精神的な取り組みを指します。認知行動療法では、自動思考の修正や合理的な考え方を身につけることで、負の感情を和らげる方法を学びます。一方のマインドフルネス瞑想は、瞑想を通じて現在の体験に注意を向けることで、感情との距離を取り、感情に流されずにいられるようになります。
生理的アプローチは、身体の生理的状態を落ち着かせることで、情動の制御を図る方法です。代表的な技法として、呼吸法と自律訓練法があげられます。呼吸法は、ゆっくりと深い呼吸を行うことで、自律神経系のバランスを整え、リラックス効果を得ることができます。自律訓練法では、体の重みや温かさに意識を向けることで、緊張をほぐし、落ち着きを取り戻すことができます。
情動制御の重要性 – 活用と応用
情動を適切にコントロールすることは、人生の様々な場面で重要な意味を持ちます。例えば教育の分野では、落ち着いて学習に集中できる状態を保つために、情動制御の技法が有効です。認知行動療法で学ぶネガティブな自動思考の修正や、瞑想によって感情との距離を取る方法などは、学習時の不安やストレスを和らげ、理解を深めるのに役立ちます。
健康の側面からも、情動制御は大きな意義があります。例えば怒りの情動が過剰になれば、心拍数や血圧の上昇などの生理的変化が生じ、健康リスクにつながります。逆に落ち着いた状態を保つ呼吸法などの技法は、自律神経のバランスを整え、リラックス効果をもたらします。このように情動を上手にコントロールすることで、心身の健康を維持できるのです。
一方で、情動を上手に活用することで、人々の行動や意欲、創造性を高めることもできます。喜びの情動があれば、新しい経験に対する好奇心が湧き、探索心が刺激されます。また、恐怖の情動は逃げたり防御したりする行動を促すため、時に危機から身を守る上で重要な役割を果たします。情動を理解し活用することで、私たちの生活に多くの恩恵をもたらすことができるでしょう。
結論
感覚刺激の受容が情動発生の前提条件となっており、感覚と情動は密接不可分の関係にあります。感覚なくして情動は生じず、感覚が情動の基盤となっています。一方で、情動は適応的な行動を促したり、自律神経系の活性化を介して身体の内部環境に影響を与えたりします。このように、感覚と情動の仕組みを理解することは、人間の行動と健康を理解する上で不可欠なのです。
また、情動を適切にコントロールする方法を身につけることで、心身ともに健全で充実した生活を送ることができます。認知行動療法や瞑想、呼吸法などを活用することで、過剰な情動を抑え、適切な感情状態を維持できるでしょう。一方で、情動を上手に活用することで、人々の行動や意欲、創造性を高めることもできます。
自分なりの感想
一流アスリートはよくメンタルの重要性を口にします。私は似たような言葉でマインドという言葉あると思っています。目の前にある壁を限界ととれるか、高い段差の階段だと思うかとか、そもそも通過点だと感じるか、どれが正解か分からないけれど、その差は大きいと思います。私は体の不調と向き合うお仕事をしています。お仕事の経験上、体の不調と心の不調はリンクしていると良く思います。情動や感情をコントロールするのが大人ですが、これが難しい。書店の平積みしている本から見てもそれはよく分かります。大脳皮質でコントロールしているといっても、大脳皮質に来る情報自体がこころの影響を受けた後のものである可能性も指摘していて、理性では制御しきれるとは思わない方が良さそうです。変わりたかったら日数がかかるということだと理解しています。途中出てきたマクリーンによる三位一体脳の学説は調べてみたら、その理由として爬虫類脳と呼ばれる部分も単に「原始的」な機能を持つだけでなく、生存に不可欠な複雑で高度な機能を持っているため、かなり偏っているようである。ただ、大脳皮質が人間特有なものであることは変わりないので、個人的には、もう少し進化させて現代に対応して欲しいところ。
私は、ポーカーフェイスとは程遠く、何を考えているか分かりやすいと思います。そんな私の頭でも複雑なんだと思って読みました。
慢性的な痛みや体の不調が脳の深いところと関係していることは多くが指摘しているが、深いところの解説をひとくくりに説明が中々ない。そんな文献を探して、見つけた文献だったので面白かったです。