はまる脳,リスク志向な脳
はじめに
- 依存症の影響: 依存症は世界的に健康を脅かす主要な疾患であり、特に若年層において深刻です。薬物依存やギャンブル依存が問題視されています。
- 意思決定の異常: 依存症患者はリスクを恐れず、大きな利益を求める傾向があり、合理的な選択ができないことが多いです。
- 島皮質の役割: 島皮質は意思決定に関わる重要な脳領域であり、その機能不全がリスク志向な行動を引き起こす可能性があります。
- 研究手法: ウイルスベクター技術を用いて、特定の脳領域の活動を操作し、依存症のメカニズムを解明する研究が進められています。
意思決定は私たちの日常生活において重要なプロセスです。不確実な状況で最良の選択をするために、期待値や期待効用を考慮して行動します。しかし、依存症や神経変性疾患の患者は、リスク志向性が高く、近視眼的な意思決定をすることがあります。これらの障害の機序を解明することは、新たな治療戦略の開発につながるかもしれません。
島皮質と眼窩前頭皮質
島皮質は、内受容感覚を司る領域で、身体部位や内臓からの信号を効率的にまとめあげ、他の脳部位へ情報を伝える役割を果たします。島皮質は、身体からの信号を受け取るだけでなく、予測や推論などの情報処理の影響を受けて能動的に知覚を形成します。例えば、痛みの予告がある場合とない場合で、島皮質の活動が異なることが示されています。島皮質は、意思決定に関わる中心的な脳領域の一つであり、報酬の予測と関係しています
眼窩前頭皮質は、前頭前野の腹側表面に位置し、意思決定に重要な役割を果たします。眼窩前頭皮質は、観測可能な情報と観測不能な情報を統合して推論を行い、意思決定の基盤となる認知地図を構成します。この領域は、感覚情報や記憶情報の統合、強化子の感情価の表現、意思決定や期待に関連しています。特に、報酬と罰に対する感受性に関連した行動計画を制御する役割があります
これらの領域は、意思決定や行動選択において重要な役割を果たしており、それぞれが異なる情報を処理し、統合することで、複雑な行動や意思決定を可能にしています。
依存症モデルと意思決定
ギャンブル試験は、リスクや報酬に対する行動選択を評価するために開発されたもので、ラットを対象とした試験では、8方向放射状迷路を使用し、ラットがリスク回避型の行動を示すかどうかを観察します。この試験では、低リスク・低報酬のL-Lアームと高リスク・高報酬のH-Hアームを設定し、ラットの選択行動を測定します。
覚せい剤依存ラットは、正常ラットと比較して高リスク・高報酬のH-Hアームを選択する傾向が強く、リスク志向な行動を示すことがわかっています。
リスク志向な行動と計算論モデリング
リスク志向な行動とは、安定した小さな利益よりも、不確実だが大きな利益を選ぶ傾向のことを指します。例えば、ギャンブルや薬物依存症の患者は、リスクを恐れずに大きな報酬を求める行動をとることが多いです。次に、計算論モデリングについてです。これは、動物や人間の行動を数式やモデルで表現する手法です。具体的には、学習率や報酬予測誤差などのパラメータを用いて、行動の背景にある計算プロセスを明らかにします。これにより、動物と人間の行動を比較し、共通の基盤を見つけることができます。
この文献では、ラットを用いたギャンブル試験を通じて、覚せい剤依存ラットが正常ラットよりもリスク志向な行動を示すことを明らかにしました。また、島皮質という脳の特定の領域がこのリスク志向な行動に関与していることが示されています。
ウイルスベクターを用いた島皮質機能操作
ウイルスベクターを用いて島皮質の神経活動を操作し、依存症モデルラットの行動を観察しました。その結果、島皮質の活動を抑制すると、リスク志向な行動が減少し、逆に活動を活性化するとリスク志向な行動が増加することが確認されました。
私なりの感想
島皮質にフォーカスした文献を探して見つけた文献です。痛み(特に慢性疼痛)について調べていると高頻度で島皮質が登場するので、一回鍼灸から離れて探していたら面白いので取り上げました。内容は島皮質と眼窩前頭皮質が依存症のマウスと正常マウスと比較して差がある。さらに依存症だから差があるのか、元々差があるから依存症になりやすいかは分からないと理解しています。島皮質については感情と身体の内部情報に影響を与える部分であるが、同時にリスクと報酬の判断にも関わっていることが示唆されていて興味深かったです。マインドとパフォーマンスの関係について強調する人が多いと思います。アスリートでこのあたりを最初に言い出したのは私の記憶ではタイガー・ウッズが最初です。(それまでは気持ちで負けるなでこれはマインドじゃなくメンタルだと考えています。)心や気持ちと身体は脳の深いところでつながっていることが示唆されていて面白かったです。